東京地方裁判所 昭和43年(ワ)13258号 判決 1970年1月29日
被告 東京都民銀行
理由
証人小倉勇男の証言中、同証人は、原告会社の経理を担当するものであるところ、昭和四三年八月二〇日、訴外鈴木孝子に対し金額二〇万円、支払場所被告銀行阿佐ケ谷支店の小切手一通を、同月二七日以降に振込んで貰いたいと依頼して振出し交付したので、右小切手が右支店にまわつてくることは心にかけていた。そして、同月二八日、手形割引依頼のため、訴外三井銀行高円寺支店に赴き、同日正午過頃、被告銀行阿佐ケ谷支店に他の用件で電話したが、その際、今日、若しかすると金額二〇万円の小切手が同支店にまわるかも知れないので、そのときは、原告会社事務所に連絡して貰いたい旨依頼したところ、電話の応待に出た右支店係員はこれを了承したとの供述部分があるけれども、別に同証人の証言中には、原告が、従来、十数回に亘り、手形、小切手の不渡を出していたこと、また、同証人が被告銀行阿佐ケ谷支店に前記のとおり連絡方を依頼したという当日、右支店における原告の当座預金残高は金五万円程度であつたが、前記三井銀行高円寺支店より手形割引によつて得た現金三一万円が手元にあつて、特に、支払予定とてなかつたが、翌日、右現金のうち前記小切手金支払のため必要額の金員を被告銀行阿佐ケ谷支店に持参入金する所存だつた旨の供述部分があるので、右供述が真実であるとすれば、被告銀行阿佐ケ谷支店における原告の当座預金残高が前記のとおりであり、右証人が小切手金の支払いを心にかけていたというのであれば、他に支払予定のない、しかも、翌日には入金する所存であつたという手元の現金を、何故即日右支店に持参入金することなく、故に、電話で前記のとおり連絡方を依頼するという不確実な方法によつたのか不審であるし、右支店の原告に対する信用が必ずしも高かつたとは思えないのであるから、そのような事情のもとでは、むしろ、同証人が供述するような連絡方の依頼などは避けて右現金を当座預金に入金するのが自然ではないかとも思われるし、また、訴外鈴木孝子に対し前記小切手を振出し交付するに際し、果して、八月二七日以降に振込んで貰いたいと依頼したか否か、従つて、同月二八日右小切手が呈示されるものと予測していたか否かの点についても同証人の証言だけからしては心証を得るに至らないし、更に、同証人の証言及び証人小倉新一郎の証言中前記連絡方依頼後、小倉勇男が、小倉新一郎にその旨を伝え、同日午後一時半以後は右両名ともに原告会社事務所にいたが、被告銀行阿佐ケ谷支店より何等の連絡はなかつた旨の供述部分も両証人の供述内容にそごする点がある等不自然であつて、以上の諸点に、証人斎藤正吉、同小園格の各証言を対比するときは、到底、前記証人小倉勇男、同小倉新一郎の各供述部分を真実に合致したものと認め難く、証人斎藤進一、同服部昌夫の各証言及び原告会社代表者本人尋問の結果も、必ずしも、的確なものではないし、他に、請求原因二、三の事実を証するに足る証拠はない。よつて、原告の本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく、失当であるのでこれを棄却